語り部歌人 鳥海昭子先生を偲んで
羽柴れな
実録ー落日
人々はもう語らなくなっていた
落日の陽射しが影をつくる日に
若い二人が空気の泡となって消えてたことを
16歳のゆめは
あなたとの愛を実らせることだけで
信仰心の違いがお互いの家にあったことなど
知るすべもないことだった
16年間
柿の実が毎年柿色に
色づくなか
父と母そして祈りとともにやさしく育ってきた
ただ
それだけのことが理解されなかった
幾晩も泣きあかし
話し合っても無駄な日々となっても
わたしの小さな胸に浮かぶ
踏絵は最後までふめなかった
あなたに
薬を渡しにいった日
何も言わずに包み込み
抱いてくれた
これがあなたの答えなのだと
落日の陽射しをみつめながら決心していった
あなたが先に静かに目をとじた
その美しい頬に触れるとき
空気の泡に導かれていった
老いた父と母の背に
落日の陽射しがさしかかっても
若い二人と信じ
今年も柿の実を柿色に育てている
~コスモス文学の会~